2010/1

物性基礎論コロキウム


弾性論と中原効果



講師: 大信田 丈志 氏 
鳥取大学 工学研究科
日時:1月25日(月)16:30より
場所: 物理教室 第3講義室 (2249号室)
(九州大学 箱崎キャンパス 理学部2号館2階)
要旨: 粉を水で溶いた泥状のもの(ペースト)を、浅い皿に注いで静置乾燥 させると、通常は等方的な網目状の亀裂パターンができる。 ところが、 ペーストを皿に注いだ直後に、短時間のあいだ、皿ごとペーストを 揺さぶると、その外力の効果が何らかの形で記憶され、あとでできる 亀裂パターンに顕著な異方性が生じることが、中原らの実験[1]に よって見いだされた。 関係者はこれを「中原効果」と呼んでいる。

中原効果の微視的メカニズムは未解明であるが、巨視的な理論と して、弾塑性流体モデルによる残留張力理論[2]がある。 今回の セミナーでは、この理論について、基礎となる弾性論の話から始めて、 なるべく丁寧に説明する。

弾性論の標準的な解説は、2階のテンソルどうしの比例関係に着目して 4階のテンソルを導入する形で展開されるせいもあって、どうしても、 ある種の分かりにくさがつきまとう。 セミナー前半では、弾性論に 関する誤解のひとつの典型例[3]を紹介し、どこがどのように間違って いるか、正しくはどうあるべきかを議論する。 後半では、非線形 弾性論に塑性を導入することでペーストの連続体モデルを構築し、 中原効果と整合する結果が得られることを示す。

[1] Nakahara and Matsuo: J. Phys. Soc. Jpn. 74 (2005) 1362; 同: J. Stat. Mech. (2006) P07016; 同: Phys. Rev. E 74 (2006) 045102.
[2] Ooshida: Phys. Rev. E 77 (2008) 061501; 同: J. Phys. Soc. Jpn. 78 (2009) 104801.
[3] 仲座栄三: 琉球大学工学部紀要 61 (2001) 37; 仲座栄三:「物質の変形と運動の理論」(ボーダーインク 2005).

連絡先: 物理学部門 坂上 (ex.2567)